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Botanical
Babi
Botanical
2013.09.13
CD
NBL-210
¥2000 (without tax)
1. 時計草
2. passepied
3. プレパラート
4. 昆虫採集
5. 魔法劇場
6. ファンシー魔女
7. レッスン
8. アルルカンと踊り子
9. アトリエ
10. owl
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岡村詩野氏によるアルバム解説:

 Babiという記号のような名前を持つアーティストの存在を知ったのは、スカートの澤部渡くんを通じてだった。ジャングリーなギター・サウンドと、瑞々しくも丁寧に編まれたメロディで昨今人気を集めるスカートの中心人物、澤部くんは底知れぬ才能の持ち主だが、一方で新旧様々な音楽に触れる良きリスナー、フレンドリーで仲間思いの心優しい若者でもある。そんな澤部くんに筆者がパーソナリティをつとめているラジオ番組に出演してもらった際、同じ大学出身の友達のアーティストとして教えてもらったのがBabiだった。

 その時の、様々な音が足を生やしてあっちこっちと駆け回ったり踊ったりしているような感触たるや! 音は愛らしさ、親しみやすさを残したままここまで軽やかで自由になれるのか!と、たちまちのうちにハッとさせられた。ヘンテコである。奇妙である。でもどこか心地良くて懐かしさもある。緻密に計算されて作られている。確かな演奏力と作曲能力もある。でも、ポーンと遠くに放り投げたような遊び心と大らかさがある。筆者が聴いたのは『6色の鬣とリズミカル』という、Babiにとっては初めてのアルバムだったが、今もその作品の持つ素っ頓狂な瑞々しさは、聴くたびに耳の中で豊かな波動となって響く。

 後日、澤部くん率いるスカートや昆虫キッズ、ceroが出演したイベントのライヴ会場で初めて会ったBabiは、彼女自身愛らしくガーリィな女性だった。いや、女性というより邪気のない女の子といった雰囲気で、「とんでもない才能ですね」と話しかけると、顔を真っ赤にしてキャッキャッと喜ぶような仕草もたまらなくチャーミング。でも、作曲の話をすると、しっかりとした言葉で自分の方法論と指向を伝えてくれる。そんな横顔もまた眩しかった。

 Babiというのは岩手県生まれで現在は東京を拠点に活動するコンポーザー、音楽家。2歳の時からピアノを始め、小野家裕子に師事、“トイレソング、空腹ソングなどを作り始め”(彼女のオフィシャル・サイトより)、91年より伊藤朋子に師事して本格的に作曲を学ぶようになったという。“トイレ・ソング、空腹ソング”というのが実際にどのようなものなのかはわからないが、現在の彼女の作品の、愛らしくも奇妙でトボけた感触が、そうした幼少の頃のユーモラスなコンポーズの上にあることは想像に難くない。確かな音楽教育を受けてきたBabiだが、一方で自由に想像力を働かせる子供だったことが、その後の彼女の作品に大きな影響を与えたのだろう。

 その後、昭和音楽大学に進学し、卒業(彼女は作曲学科サウンド・プロデュース・コース出身)。スカートの澤部渡、カメラ=万年筆のメンバーとは学年こそ異なるが学友関係にあたり、クラシック音楽の作曲編曲法を学びつつもポップスを指向する仲間として今に至るまで信頼関係を結んでいる。Babi自身は卒業後も音源作りやライヴにうちこみつつ、多くのCM曲も制作。また、数々の逸材を生んだ坂本龍一のラジオ番組『RADIO SAKAMOTO』では常連ノミネートとなり、2011年にリリースされた先のファースト『6色の鬣とリズミカル』にはその坂本からコメントとお墨付きをもらうこととなった。このあたりのバイオグラフィはBabiのHPに詳しい。

 だが、ここに届いたニュー・アルバム『Botanical』を聴いていただければわかるように、彼女はそうした経歴に甘んじてはいない。むしろ、自らのそんなキャリアを尻目に、鼻歌混じりにスキップを踏んで音を鳴らしているような、そんなうららかさがある。形式にとらわれない自在なコンポーズによって作られた曲の数々は、その構造自体は実に複雑ではあるが、ポップなフックと人なつこさを持っているのが特徴で、完成度は驚くほど高いが、自ら遊び心を施してあるのがBabiの作品の魅力だ。もちろん、技術やセンスがないとできないことだが、Babiというアーティストはそんなハイ・レヴェルなことを魔法使いが魔法のステッキを振るようにパパパパパッと鮮やかにこなしてしまう。相当手の込んだ曲だったとしても、彼女はその高い技術を外にはほとんど見せない。そこがいい。

 そういう意味でも本作は、そんな魔法のステッキがBabiの手によってキラキラとした星や音符を散らしながら振られているような、そんな作品でもあるだろう。Babiの前ではドビュッシーもプーランクもガーシュウィンも、あるいは坂本龍一でさえも、魔法にかかった子供のようだ。貴方もぜひその魔法にかかってみてはどうだろうか。

2013年7月 岡村詩野

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